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アメリカの大学院に出願する

本記事はもともと、「アメリカの博士課程①PhDとは何か?」と「②PhD学生の生活」の間の記事として構想したものです。これらの記事をまだご覧になっていない方は、そちらもどうぞご覧ください。

「アメリカの博士課程①②」はどなたにでも読んでいただきたいのですが、本記事は実際にアメリカの大学院に出願することを検討している方向けの内容なので、「アメリカの博士課程」シリーズから切り離しました。

アメリカの大学院に出願する

本記事では、アメリカの大学院に出願する過程の詳細を、しげ自身の経験を交えて解説します。また、しげが実際にアメリカの大学院受験を経て直接的に学んだことや、誰かのブログや書籍で読んだこと、知人から聞いた体験談などをもとに、これからアメリカの大学院を受験する方へのしげなりのアドバイスも適宜散りばめています。本記事は、もうすぐアメリカの大学院を受験するという方はもちろんのこと、まだ大学院に行くまでは何年もあるけれど興味はあるという方にもお読みいただければと思います。専門知識、研究能力、推薦状をお願いする先生方とのつながり、日本育ちの方の場合は英語力、それらのどれをとっても、じっくりと数年以上かけた準備が必要となるからです。

しげが受験したのは博士課程なので基本的には博士課程の解説ですが、修士課程においても入試のプロセスのかなりの部分が共通していると思うので、本記事では「大学院」という言葉を使い、修士課程と博士課程をひとまとめにしています。しげがアメリカの博士課程を受験したのは、2020年度入学の年です。本記事は、その時の経験から記憶、記録していることに、改めて調べ直したことなどを少し加えて執筆しています。しげが受験した当時から時を経て異なっていることや、大学やプログラムの違いによって異なることなどもたくさんあるとは思いますが、本記事からおおよそのイメージはつかめるはずです。また、しげの専門は建築史で人文系に属しますが、分野が違えば大学院入試の慣習も大きく違っている可能性があります。実際に大学院に出願する際は、それぞれのプログラムのウェブサイトをよく読んで参考にしてください。

スケジュール

まずは、アメリカ大学院受験の大まかなスケジュールを紹介します。以下は、とっても大まかなアメリカ大学院入試のスケジュールです。

アメリカ大学院入試の大まかなスケジュール
  • 9–1月
    出願、書類提出
  • 1–3月
    (面接)
  • 2–4月
    合格発表
  • 8–9月
    授業開始

アメリカの大学は、通常9月(しげの大学は8月)に一年が始まりますが、合格通知がなされるのは、大学やプログラムによってかなりの開きがあるとは思いますが、だいたい2月から4月の間くらいなので、日本の大学受験の合格発表と同じくらいかもしれません。日本の大学や大学院を卒業してすぐにアメリカの大学院に入学する場合、日本の学校の卒業前に進学先が決まっていると安心ですが、合格通知が4月以降になってしまった場合、いったん日本で新しい学校や会社に入ってからすぐにやめてアメリカに行くという方もいらっしゃるかもしれません。

アメリカの大学院入試では、日本の大学院入試と違い、それぞれの大学の教授が作成した問題を解く試験のようなものはありません。入試は基本的にすべて書類審査ですが、場合によっては面接もあります。書類の提出は、大学やプログラムによって異なりますが、だいたい9月から12月もしくは1月あたりの数ヶ月間に行います。その期間であればいつ書類の提出を完了しても構いません。場合によっては、推薦状の提出のみ期限が遅いことや、書類の提出より先にシステム上で情報の入力や受験料の支払いなどを済ませておかなければならないこともあります。意外とそれぞれの大学やプログラムによって違っているので、しっかりとひとつひとつのプログラムに関して事前に調べておくことが重要です。

書類の提出後、大学院の教授と面接のようなものを行う可能性がありますが、この点はプログラムや分野による違いが大きいです。しげの場合は、最終的に合格し入学することになったテキサス大学オースティン校の教授とは合格前に一度音声のみの電話で話しましたが、面接というよりは挨拶に近いような感じで、すでに合格はほとんど決まっていて、しげという人物が本当に存在していて博士課程に進学する意思が変わっていないか確認する程度のものでした。面接の有無も重要性も、プログラムによって完全にまちまちです。

しげの場合は、アメリカの5校に出願し、1校に合格しましたが、合格した大学院が一番すぐに連絡が来て、不合格だった大学院はかなり後から連絡が来ました。しげの場合は、合格は2月に、不合格もすべて3月の終わりまでに連絡が来たように記憶しています。

妻は同じ時期にカナダの大学院の修士課程に出願したのですが、アメリカとカナダでは多少の違いはあるものの、このスケジュールに関して大きな違いはありません。強いて言うなら、カナダの方が全体的に少しスケジュールが遅めな印象です。

出願に関する全体的な準備のスケジュールについては最後の「まとめ」で、ひとつひとつの提出書類の準備スケジュールについては次の「提出書類」の項でお話しします。

提出書類

上で述べたように、アメリカの大学院入試では、大学院が直接実施する試験のようなものはないのですが、提出しなければならない書類がたくさんあります。プログラムによって異なるのはもちろんですが、必要となる書類は、だいたい以下の通りです。

これらは、しげが思う重要な順に並べてあります。ただし、①が最も重要なことと⑤⑥⑦がそれほど重要でないことは間違い無いのですが、②③④に関しては、どれも同じくらい重要です。

以下、それぞれについて、どのような書類であるかに加え、いつごろからどのように準備していけば良いのか、説明します。それぞれががひとつの記事にできるくらい語れるものなので、将来記事にする可能性はありますが、ここではごく簡単な説明にしておきます。

①Statement of purpose(志望動機書)

statement of purposeは、statement of intentなどの言い方もありますが、だいたい1000ワード程度で、なぜその大学のそのプログラムに入りたいのか、そのプログラムに入ったらどのような研究や活動をしたいのかを説明する書類です。志望動機を明確に説明するためには、これまでどのような勉強や活動をしてきたかや、プログラム卒業後どのような道に進みたいかについても書くことになるかもしれません。

複数校を受験する場合、それらすべてのプログラムの分野が同じ場合は、すべてのstatementがおおよそ同じ内容のものになっても構いません(しげの場合は、建築史のプログラムを4つと美術史のプログラムをひとつ受験しました)。しかし、特に志望順位の高い大学であればあるほど、それぞれの大学やプログラムの特徴や教授陣に合わせてstatementの内容を変えるべきです。特に博士課程であれば、入学後はひとりもしくはそれ以上の教授と密接な関係を築いて研究を行うことになるので、どの教授のどの研究に興味があるのかなどについて書くことが望ましいです。

興味のある教授に事前に連絡することも普通です。もしすでに教授と学会などで知り合っているのであれば、そのことは間違いなく有利に働きます。北米(やおそらくヨーロッパ)では、そのようなつながり(日本でいうコネ)による採用は、学校でも仕事でも最も正当な採用方法のひとつで、だからこそ、下で述べる推薦状の文化などもあるわけです。教授たちはみなとてつもなく忙しいので、返信が来ないことのほうが普通ですが、だめもとで教授にメールしておくのは良いことです(日本では個人情報保護のためか、教授のメールアドレスは普通大学のウェブサイトでは公開されていないですが、アメリカでは、研究促進のため、ほぼ必ず教授の連絡先が大学のウェブサイトに載っています)。しかし、だからといって、メールに返信がないとそのプログラムに受からないなどということはまったくないので、気にしすぎることはありません。しげも、何人かの先生にメールを送りましたが、ひとりも返信がなかったですし、結局しげのことを採用してくれた現在の指導教官の先生は、しげが事前にメールを送っていなかった先生でした。学生からのメールに返信するかどうかは、先生によってまったく違います。夏休みは学期中に比べると忙しくないのでメールに返信してくれる先生もいますが、逆に、夏休みはメールの返信を一切しないという先生もいます。

statementは、それぞれのプログラムに合わせる前のプロトタイプか、もしくは第一志望のプログラムに合わせて書いたものを、遅くとも9月や10月などの早い段階で完成させておくことが望ましいです。なぜなら、下で説明する推薦状を依頼する際に、その先生にstatementを読んでもらうことが理想だからです。statementを読んでおいてもらったほうが良い推薦状を書けるということもありますし、なぜアメリカの大学院に行きたいのかをその先生にきちんと説明したうえで推薦状を依頼しなければ失礼にあたる可能性もあるからです。また、優しい先生であれば、statementについてアドバイスもくれるかもしれません。

statementは、応募者がどんな人物かを最も直接的に語るものなので、一番重要な書類だと思います。どこかでサンプルを読んで参考にしたり、誰かに意見をもらいながら、時間をかけて丁寧に仕上げるべきです。

②CV(履歴書)

CVとはcurriculum vitaeのことで、アカデミアにおける履歴書のことです。アカデミア以外の世界では、履歴書のことはrésuméと言いますが、特にアカデミアの文脈ではCVという言葉が使われます。CVは大学院の受験生や研究者が自分のアカデミックな経歴を伝えるために作成するもので、普通の履歴書とは違います。もちろん個人個人によってCVの書き方やスタイルが違っていて、どの書き方が正しいと決めることはできないですが、どのように書くかには様々な細かいルールがあるので、CVの書き方をどこかで調べてそれを真似して書くべきです。

しげはウェブ上で検索していろいろな例を見たりして書いたと思います。研究者によってはウェブサイトでCVを公開していることもあるので、自分の分野の研究者をたくさん検索してみて、彼らのCVを見てみるのがいいかもしれません。CVの書き方は分野によっても違うので、自分の分野に近い研究者のCVを見るのが理想です。しげはいまでは、「アメリカの博士課程①PhDとは何か?」でも紹介した、The Professor Is Inという本に載っているCVの書き方を参考にしながら、ところどころ自分流にアレンジしてCVを書いています。The Professor Is Inは、アメリカで大学教授になりたい人が読む本ですが、将来アメリカの大学で教授になるつもりがあるならば、大学院に入学する前の人にも参考になる章がいくつもあります。また、しげは当時そういう本はひとつも読んでいなかったのですが、アメリカの大学院に入るためのアドバイスを書いた本もいくつかあるのではないかと思います。

研究者のCVは調べればいくつも出てくるのですが、大学院受験生のCVは、身近に同志がいなければ、そういった本から見つけるしかないのではないかと思います。しげはそういった本を見ていなかったので、自分と似た立場の人のCVというのは、当時一緒に大学院出願の準備をしていた現在の妻のものくらいしか見ていませんでした。すでに教授などになっている研究者のCVばかりを見ていると、当然のことですが、自分にはない業績がたくさんあって、自分のCVはこんなので良いのだろうかと感じてしまいます。しかし、これから大学院に入るという人に研究業績がないのは普通のことです。CVが短くても、論文がひとつもなくても、大した賞を受賞していなくても、それほど気にしなくていいと思います。逆に、論文や賞がひとつでもあれば、すごいことです。

CVは、その人の学歴や業績を客観的に記述した資料で、短い時間でかなりの情報に目を通すこともできるので、重要性が高いとしげは思います。受験者が最低限の受験資格を満たしているかなどもチェックできます。アメリカの場合、学部さえ卒業すれば入学できる博士課程も多いですが、しげが受験したプログラムはほとんどの場合、修士号の取得が条件でした。CVには、たとえば、何年何月に修士号を取得見込みであるというようなことが書いてあります。また、すでに論文を発表していたり大きな賞や奨学金を取った経歴があれば、優秀な学生として教授の印象に残るかもしれません。しかし、statementの内容が悪ければCVが良くても台無しなので、あくまで二次的なものではあります。

③Recommendation letters(推薦状)

referenceという単語も推薦状を意味します。推薦状は日本では一般的ではないので、日本人にとっては、最も失敗しやすく、最も不安な要素だと思います。ほかのものはすべて用意できてもこれだけは用意できずにアメリカの大学院受験を諦める人も多いかもしれません。

推薦状は、プログラムによって違いますが、平均して三通の提出を求められます。それは、これまで三人以上の先生と一定以上の深い関係を築いていなければならないことを意味しているので、一朝一夕で達成されることではありません。推薦状を頼めるような関係を教授たちと築くことは、しげがウィスコンシン大学マディソン校(UWマディソン)に一年間交換留学した大きな目的のうちのひとつでした。結局しげは、UWマディソンで関係を築いた教授ふたりと、日本で以前から関係を築いていた教授ひとりに推薦状を依頼しました。

推薦状を依頼する教授は、もちろん自分と同じ分野だと良いのですが、あくまで研究職のポジションに応募するのではなく学生として学位のプログラムに応募するので、必ずしも推薦者の全員が応募者の専門知識や研究遂行能力を詳細に評価できる必要はありません。たとえば三人のうちのひとりには、専門知識よりも人格を中心に評価してもらうということでも構いません。ある先生の授業をひとつ取っただけなどでは、その先生に推薦状を依頼するには関係が薄いので、より深い個人的な関係を先生たちと築けるように、日頃から心がけましょう。しげの場合、専門は建築史ですが、UWマディソンには建築学部がないので、推薦状を依頼した先生はふたりとも美術史関連の先生でした。日本で依頼した先生も建築とはまったく関係のない先生だったので、建築史の先生はひとりもいませんでした。

推薦状は、最低でも締め切りの二週間以上前、できれば一ヶ月以上前に先生たちに依頼するのが、アメリカで一般的に考えられている失礼のない方法です。その先生との関係が良好で優しい方であれば、推薦状の執筆をすんなりとオーケーしてくださり、きちんと締め切り前に提出してくださいます。しかし、なかには、依頼のメールに返信が来なかったり、本当に自分が推薦者として適任なのか疑問に思うことを伝えてくる人もいます。本当にその人に推薦してほしいと強く思う場合は、どうしてその人が適任なのか、めげずにもう一度説明してみましょう。どうしても推薦者をほかの人に変更しなければならない可能性なども考えると、推薦状の依頼は締め切りの一ヶ月前でも遅いかもしれません。

アメリカでは、ほとんどの場合、推薦状はInterfolioというサービスを利用して提出できます。Interfolioは、いくつもの宛先に推薦状を提出しなければならない場合に、推薦者は一度だけ推薦状を提出すればよく、被推薦者は推薦状の中身を見ずに推薦状を大学などの機関に提出することができるサービスです。推薦状の中身を見る設定もできるのですが、推薦状は見ないことが礼儀ですし、推薦状を見ないことが条件だと提示する先生もいます。もし推薦状を見る設定にした場合、その設定であることが推薦者にも伝わります。なので、推薦状は見ない設定にすることが普通です。アメリカでは推薦状が必要になることが本当に多いので、このような便利なサービスが発達しています。日本でもアメリカを真似て推薦状を要求する奨学金などがあるのですが、提出方法があまりにもお粗末なため、応募者も苦労しますし、何より推薦してくださる先生方に迷惑をかけてしまいます。

推薦状が締め切りまでにきちんと提出されるかどうかも、普通は出願者の責任です。Interfolioで推薦状を提出する場合もそうでない場合も、推薦者が推薦状を提出すると応募者に通知されることがほとんどなので、締め切りまでにきちんと提出されるか注意しておきましょう。

海外経験のない、もしくは少ない日本人の先生に推薦状を依頼しなければならない場合、途方も無い困難が待ち受けているかもしれません。日本には推薦状の文化が浸透していないので理解が得られにくいことと言語の壁が、困難の主な原因です。日本ではコネで学校や企業などに入ることは不正なこととされることが多いですが、アメリカでは、誰かが推薦しているということは、その人を信頼する大きな理由のひとつです。その推薦者が知人だったり有名な研究者だったりすればなおさらです。推薦状やそれに似た制度は、アカデミアに限らず様々な場所で見られます。逆に言うと、推薦状を書くことも教授たちにとっては当然の仕事のうちのひとつです。かつて自分たちも若いころ先生たちに推薦状を書いてもらったはずで、誰かを指導する立場になったのちに今度は自分がその人たちのために推薦状を書くことになるのは当然です。アメリカでは、指導教官が学生の推薦状を書くことを断るというのは相当なことです。推薦状のなかでどれだけその人のことを褒め称えるかはその先生の自由ですが、そもそも書くことを断るというのは、普通の関係ではあり得ません。

ですが、日本だと、忙しいから、面倒くさいから、そういうの書いたことないから、なんて書いたらいいのかわからないから、英語もできないから、というような理由で断る先生がいるかもしれません。また、断られないにしても、サインだけするから内容は自分で勝手に書いてほしいと言われる割合がかなり高いです。アメリカでも特に年配の先生であるほど、まず自分で推薦状の下書きを書いてほしいと提案する先生はいるようですが、これは、推薦者の信用が失墜してしまうかもしれない行為なので、普通はしません。しげの場合、UWマディソンの教授のひとりがこのかたちだったので、自分で下書きを作成しました。

また、しげの場合、推薦状を依頼したひとりの日本人の先生とは、一緒に会って話し合いながらどのようなことを書くか決め、ふたりで書いていくスタイルをとりました。このように推薦状のために時間を割いてくださる先生はとても良い先生です。必ずしも自分の所属している研究室の先生がこのような良い先生だとは限らないので、その先生に依頼できない場合、ほかに推薦者を三名見つけなければなりません。また、先生が英語を一切書けない場合、自分ですべて翻訳するか、翻訳業者に依頼しなければならず、余分な時間とお金もかかってしまいます。

推薦状にももちろんアメリカのアカデミアで慣習になっている形式があります。もし自分で推薦状を作成するかもしくは教授に手取り足取り指示しなければならなくなった場合、そのような形式をよく調べなければなりません。推薦状の書き方のような本はアメリカではいくつかあるのではないかと思いますが、日本でも、『大学院留学のためのエッセーと推薦状』という本が翻訳されています。この本はあくまでビジネス・スクールとロー・スクールの受験向けなのですが、しげは、このなかから、しげの分野でもそれなりに適用できそうな推薦状例を見つけて、スキャンして日本人の先生に送りました。

推薦状は、もしとても良い内容だった場合、かなり有利に響くのではないかと思います。他人の目線から受験生の評価を見れるのはここだけだからです。なので、重要性はかなり高いと思います。できれば、それなりに長いお付き合いのある先生に執筆していただきたいです。

④Writing samples(ライティング・サンプル)

ライティング・サンプルは、その名の通り、出願者が過去に書いたアカデミックなライティングのサンプルを提出するものです。もしすでにジャーナルに発表された英語の論文などがある場合は、ページ数が規定通りであればそれをそのまま提出するのが最善です。しかし、大学院に出願するタイミングでは、ほとんどの学生には、そのような論文はまだありません。その場合は、自分で書いたアカデミックな内容のものでさえあればいいので、ページ数の規定に合う英語のライティングを提出します。

しげの場合は、すべてUWマディソンにいる間に書いたものを修正して提出しました。大学院生向けのセミナーを美術史と歴史でふたつ取っていたので、それらのそれぞれのセミナーのために書いたものと、推薦状を依頼した先生のうちのひとりに指導していただいていた研究をまとめたものの三つがありました。

ライティング・サンプルはひとつだけ提出する場合が多いですが、しげの場合は、最大で三つまで提出できる大学がありました。ページ数の上限なども大学やプログラムによってまちまちです。出願者の多いプログラムほどページ数は少なくなってしまうと思います。

日本人の方で、もしいままでに英語で書いたアカデミックな論文がまったくないという場合は、何に発表するというわけでなくても大丈夫なので、できるだけ早く何かを書くのが良いと思います。

ライティング・サンプルは、審査する教授たちが出願者の能力や興味を最も直接的に見ることができるものなので、重要性はとても高いと思います。ただ、多くのページ数のすべてをじっくり読んでもらえるということはかなり稀だと思うので、ここでは、CVと推薦状の下に位置づけています。もしじっくり読んでもらえるのであれば、statement並みに重要なのではないでしょうか。なかにはじっくり読んでもらえる出願者もいると思いますが、そもそもある出願者のライティング・サンプルをじっくり読むべきかどうかを決めるのがstatementやCVなどの短い時間で目を通すことができる書類だと思うので、その意味でも、ライティング・サンプルはあくまでstatementとCVの下位にあるものだと思います。

⑤Certificates and transcripts(大学の卒業証明書、成績証明書)

CVに記載されている取得済みや取得見込みの学位や成績の証明書を提出します。いまどきの大学は、日本でも英語の証明書を発行していると思うので大丈夫ですが、もし英語の証明書がない場合は、自分で翻訳する必要があります。出願の時点で取得見込みだった学位は、入学後に取得済みの証明書をもう一度提出することになります。

これはいつか別の記事で詳しく書きたいと思っているのですが、早稲田大学で発行された修士号の英文証明書は、英単語の使い方が甘かったせいで、しげの大学では受理してもらえませんでした。そういうことも起きうるので、場合によっては苦労します。

プログラムによってはGPAの最低点が定められてる場合もあるかもしれませんが、日本の大学を卒業した方の場合はあまり気にする必要はないとしげは思っています。そもそもアメリカの大学のほうが高GPAの学生の割合ははるかに高いです。ほぼ満点のGPAを持っている学生はたくさんいます。単にアメリカの大学生のほうがたくさん勉強していると言えばその通りですが、日本の大学のほうが高いGPAは取りにくいとしげは個人的に思っています。日本では出身大学がものを言うことはあってもGPAがものを言うことは稀なので、教授もあまり気にせずCなどの成績をつけるからです。アメリカでは日本よりはるかにGPAが重視されていて、どこの大学を出ているかに関わらずGPAが低いと優秀な学生でないように見られてしまい就職しづらくなってしまうかもしれないので、教授もCなどの低い成績を学生につけるのはそれなりに躊躇します。

GPAというのはどの大学でもどの国でも同じように計算されているわけではないですし、そのくらい大学の人たちもわかっているので、日本の大学出身者であれば、GPAでアメリカの大学生と同じ土俵で評価されることはあまりないのではないでしょうか。しげの場合、学部で卒業に必要な単位の約1.5倍を取得したので、総単位数と受講した授業の幅広さには自信があるのですが、そんなことを評価してくれる人たちはめったにいません。いくら単位数は多くてもGPAは高くないので、しげは、GPAの提出が必須でない大学にはGPAが記載されていない証明書を提出していました。早稲田大学ではGPAという数値は計算されないという体でいけるわけです。プログラムによっては、大学がGPAを証明していない場合は自分でExcelで計算するように指示される場合もあります。そこまでしてGPAを知りたいと言ってくる場合は観念しましょう。もちろん日本の大学出身者でも、GPAがとても高く自分のアピールポイントであるという場合は、はじめから堂々とGPAを出すのが良いです。

GPAを必ず出さなければならない状況でGPA3.0以上でなければ受験できないというように書かれているような場合でも、とりあえず出願してみるのが良いのではないかとしげは思います。自分が教授ならGPAにはほとんど興味がないと思うからです。アメリカの大学で教授たちは絶大な力を持っていて、もし気に入った学生がいたら、多少どこかの部分で基準を満たしていなくても、その人を合格させると思います。GPAが低い程度のことなら、大学院受験を諦めるほどのことではないです。

⑥IELTS or TOEFL scores(英語テストのスコア)

英語が公用語の国の国籍を持っていない場合などでは、IELTSやTOEFLなどの英語テストのスコアを大学に提出する必要があります。このスコアの提出が必要となる条件も大学によって違っていて、たとえばアメリカの大学を卒業していれば大学院受験のときには英語テストのスコアを提出する必要がないという場合もありますし、日本人であればたとえアメリカの大学の学位をすでに持っていても英語テストのスコアを提出する必要がある場合もあります。

出願に必要な最低スコアも意外と大学によって大きく異なっています。特に異なっているのは、IELTSとTOEFLのスコアの組み合わせです。IELTSなら7.0点以上必要でTOEFLなら100点以上必要という大学もあれば、IELTSなら7.0点以上必要でTOEFLなら90点以上必要という大学もあります。後者の大学なら、TOEFLを受験した方がIELTSを受験するよりも最低点を越えられる可能性が高いかもしれません。しげは、どちらも受験したことはありますが、IELTSの方が圧倒的に易しく良いテストだと思っていたので、ある時からIELTSしか受けていませんでした。IELTSはもともとはイギリスのテストですが、いまではアメリカでもIELTSのほうがTOEFLより優れていることが広く認められていて、多くの大学でIELTSが採用され、TOEFLでは受験できない大学もあります。ですが、逆にIELTSでは受験できない大学もあると思うので、気をつけましょう。Overallの点数だけでなく、特定の技能の点数に条件を設けている場合もあるので、その点もよく注意しなければなりません。

英語の点数は、最低ラインを上回っていなければ受験資格すら得られませんが、逆にその点数さえ上回っていれば、ぎりぎりの点数でもあまり問題はないと思います。審査する教授たちは、英語なんて入ってからいくらでも上達するでしょう、と気楽に考えていることと思います。とはいえ、最低ラインは上回っていないと、学部内でおさまる問題ではないかもしれないので、いくら気に入った学生がいても、教授にはどうすることもできないかもしれません。

⑦GRE scores(GREのスコア)

これはいまどき要求する大学は少ないのでおまけですが、GREというのは、アメリカの大学院を受験する人たちが受ける共通学力テストのようなものです。しげの場合、受験した5校のうち1校だけがGREのスコアを要求していたので、General Testを一度だけ受験しました。数学のテストは日本では中学生でも満点が取れる程度の簡単な問題ですが、英語のテストはとても難しいです。英語のテストで良い点を取るには相当な勉強が必要ですが、GREに多くの時間を割くのはあまり賢明でない気がします。特に非ネイティブ・スピーカーの学生は、英語のテストで良い点を取れなくても当たり前で、教授たちもそれくらいはわかってくれると思います。

まとめ

以上、アメリカの大学院入試の大まかなスケジュールと必要な提出書類の解説をしました。最後に、出願準備にどれくらいの時間がかかるのか、全体的な視点からしげの考えを書いてみたいと思います。

個々の必要書類を見れば、最も時間がかかるのは推薦状です。実際の依頼は締切の一ヶ月ほど前に行えば良いのですが、先生たちとの関係の構築は、最低でも半年から数年以上かかります。また、ライティング・サンプルも、実際に書く期間は数日から一週間ほどかもしれないですが、それまでの専門的な知識の構築や研究テーマの選択、調査や実験などは数年がかりでするものですし、それまでの人生のすべてが詰まっていると言っても過言ではないかもしれません。これまで日本で生きてきた人であれば、英語のライティングもまだなく、英語を書くことも話すことも自信がないかもしれません。英語力を身につけることも、長年の積み重ねです。

そういう意味で、アメリカ大学院への出願準備は数年以上かけるものですし、出願を思い立つのは早ければ早いほど良いです。海外経験の少ない日本人ならば、なおさらです。しげの場合、一年間の交換留学がまるまる、アメリカ博士課程の出願準備期間のようなものでした。そのような留学を行う必要は必ずしもないですが、出願の一年以上前から戦略的に準備を行う必要があります。

どの分野でどの国の大学院を受験するかということは早めに決めておく必要がありますが、最終的な受験校を決定するのは意外と直前でも大丈夫かもしれません。最低限第一志望が決まっていれば、その学校に合わせてstatementを作成し、推薦状を依頼しておき、後からほかの志望校に合わせて少しだけstatementを変更して出願することができます。志望校の絞り込みには様々な方法がありますが、その分野の学会が大学院のプログラムをリストにしている場合などがあるかもしれません。その場合、そのリストをしらみ潰しにしてプログラムのウェブサイトを見ていきます。そのようなリストがない場合も、気になる大学に自分の行きたいプログラムがあるかどうか、ウェブサイトを片っ端から見ていって志望校を絞り込みます。

アメリカの大学院に行くには必要なことが多いので大変ですが、分割すれば、結局は上に挙げたひとつひとつの書類を提出することさえできれば出願できます。なので、アメリカの大学院への出願を思い立ったら、早いうちから具体的な出願プロセスを把握して、そのひとつひとつについて戦略を立てることが重要です。そのために、本記事が少しでも役に立てれば嬉しいです。

下の記事では、しげがアメリカの大学院に進学することに決めた経緯をより詳しく書いているので、まだお読みでない方は、こちらもどうぞご覧ください。

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