しげがゲスト・エディターを務めた雑誌『a+u』8月号「バックミンスター・フラーの7つの原理」が発売になりました!

アメリカに住んでいて大変なこと②食べ物

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本記事は、「アメリカに住んでいて大変なこと①お金」の続編です。まだ①をご覧になっていない方は、そちらもどうぞご覧ください。

②食べ物

「お金」についての問題は、主にアメリカ全土でビジネスを行っている企業のいくつかを念頭に置いて書いたので、しげの経験をアメリカ全体に当てはめても、大きくははずれていないのではないかと思います。しかし、「食べ物」について大変なことは、もしかすると、しげが現在住んでいるテキサス州オースティンに特有の問題であって、アメリカ全土、特にオースティン以上の大都市、には当てはまらないのではないかと思います。アメリカ全土の話をするには、しげはまだまだアメリカ経験が不足しているかもしれません。

しげが初めてアメリカに来たのは、大学二年生のときにカリフォルニア大学デービス校(UCデービス)に約一ヶ月間の短期留学を行ったときでした。大学の留学センターを通して、UCデービスのEnglish for Science and Technologyというプログラムに参加しました。UCデービスは農業分野で有名な大学で、様々な農作物を大学内で育てており、キャンパスのいたるところに様々な動物がいます。プログラムの一環で、現地の日本人研究者の講演を聞いたのですが、その方もコーヒーの研究者でした。

しげがそこで学んでいたのは英語なので、UCデービスが農業分野に強い大学だということはしげの勉強にはあまり関係がなかったのですが、ひとつ、そのことが大きく影響を与えたのは食堂でした。そのときは知る由もないですが、UCデービスの食堂はアメリカの大学のなかでもかなり特別なようで、信じられないほどのハイクオリティでした。大学で育てられている様々な食材を活用しており、多様な野菜や果物を自由に取ることができるサラダバーはもちろんのこと、料理の種類やジャンルごとに分かれたブースから好きな料理を何でも持って行って食べて良いのでした。ドリンクも飲み放題です。しげと同じ早稲田大学から来た仲間たちはみなUCデービスの寮に住んでいて、寮の費用に食堂の費用も含まれていました。何をどれだけ食べても値段は同じです。

しげはこれを、ひよこの刷り込みのように、アメリカの大学のスタンダードだと勘違いしたのでした。もとはと言えば、これがしげの初めてのアメリカ滞在だったのだから、しげはこれをきっかけにアメリカの大学に憧れるようになったのです。アメリカの大学の敷地は平均して日本の大学よりもはるかに大きい場合が多いとは思いますが、UCデービスはその中でも桁外れに大きいです。それすらも、アメリカのスタンダードだと思い込んでいた部分があると思います。

次にしげがアメリカの大学に所属したのは、大学院生になってから、ウィスコンシン大学マディソン校(UWマディソン)に交換留学をしたことです。UCデービスは農業分野で世界一の大学ですが、UWマディソンは同分野で世界二位の大学です。しげが交換留学先を選んでいたときに調べたランキングではそうでした。このときもほとんどの期間を大学の寮で過ごし、大学の食堂で食事を摂っていました。いま思えば食堂の質はかなり高く、特にチーズケーキなどがおいしかったですが、当時はUCデービスと比べてがっかりしたものでした。キャンパスの大きさも、かなり大きいと言ってさしつかえないと思うのですが、もちろんUCデービスよりは桁外れに小さいです。そのように、食堂の質とキャンパスの大きさ双方の「アメリカ標準」がしげの中で少しずつ下方修正されていったのでした。

そして次にアメリカの大学に所属したのが、しげの現在の所属であるテキサス大学オースティン校(UTオースティン)の博士課程に進学したことです。ここへ来て、食べ物に限らず本当に様々な分野でのしげのアメリカの概念がぶっ壊れていきました。食べ物に関して言えば、とにかくひたすらに質が低い。いまだに信じられないほど低いです。しげはオースティンでは大学の寮には住んでおらず、大学の食堂を使うことも少ないので、これは大学の食堂だけでなく、オースティンという街全体について言っています。しげは以前から食べ物に対するこだわりは強かったものの、好き嫌いは少なく、どちらかと言えば、何でもおいしくいただくほうです。しかし、オースティンに来てからは、あまりにもまずいものを食べすぎて、少しでもまずそうな食べ物の臭いや味を感じると反射的に吐き気を催してしまうえずきの症状に悩まされています。

オースティンにだってもちろんいいレストランはたくさんあるし、少しずつおいしいお店を見つけています。しかし、やはり平均するとどうしても質が低いと言わざるを得ないし、「①お金」で述べた通り、おいしいものがあったとしても高価です。最初から値段を全く気にしていなければ、おいしいものもたくさんあるとは思います。しかし、日本人であるからゆえに、日本の値段と比べてしまうことはやめられません。日本では1000円以下でもおいしいものをお腹いっぱい食べることができますが、アメリカではほぼ不可能です。アメリカに住んでいらっしゃる方のなかには、1000円程度でおいしくお腹いっぱい食べられるお店を知っている、という方がいらっしゃるかもしれませんが、日本ではそういうお店やお弁当がいたるところで見つかるのに、アメリカではやっとのことでひとつ自分の周りに見つかればいいほうではないでしょうか。日本のレストランが安すぎることは問題ですし、もっと値上げすべきとも思うのですが、一個人消費者としては当然安いほうが助かります。

Uber Eatsなどの宅配サービスを何度か使うと、その地域のレストランのレベルがなんとなくわかります。オースティンでは、九割の注文は完全に後悔します。値段も上乗せですし、作ってから時間が経った状態で来るので、できるだけ使わないようにしています。オースティンと比べる対象はしげの場合、同じテキサス州の大都市ダラスと妻の出生地カナダのオタワですが、どちらも、オースティンよりはるかにレストランのレベルが高いようです。ダラスは大都市なので、単純に選択肢がたくさんあり、そのなかからおいしいレストランも簡単に見つけることができます。オタワもオースティンと比べると食べ物のレベルが高いです。どうりで妻はオースティンが大嫌いでオタワが大好きなわけです(しげもオタワのほうが好きです)。

アメリカはたしかに日本と比べれば歴史の浅い国ですが、それでも様々な独自の料理を持っています。ハンバーガーはアメリカと聞いてまずみなが連想するものですし、テキサスには独自のバーベキュー料理やメキシコ料理の影響を受けたいわゆるTex-Mex料理などがあります。ハンバーガーは当たり外れがありますが、幼少期からの刷り込みの影響か、結局マクドナルドが最も安心する味だという結論に辿り着いてしまいます。しかし、マクドナルドも日本で食べる二倍から三倍の値段は覚悟しなければなりません。バーベキュー料理やTex-Mex料理は、オースティンでも、いいお店で食べれば確実においしいです。しかし、値段からしても味や栄養面からしても、とても毎日食べるようなものではありません。また、これは次の記事のテーマとも関わってくる問題ですが、車を持っていなければ、いくらいいレストランを知っていても、そもそもそこに行くことができません。車がなければほとんど選択肢はないのです。

安くておいしいお店、というのはほとんど存在しません。それが資本主義の定めなのかもしれませんが、なぜか日本にはそういうお店もたくさんあるような気がします。日本人向けに調整されたイタリアン、中華料理、インド料理などは本場の人たちからすれば我慢ならないものかもしれませんが、少なくとも多くの日本人にとっては、ひとつのアレンジ料理として、完成された味になっています。ラーメンなどは外国に起源があるものをアレンジしていまや日本の代表料理になったものですし、考えてみれば、他にもかなりのものが外国の影響によって成り立っているはずです。外国の影響をまったく受けていないものというのはほとんど存在しないはずです。建築においても同じです。

アメリカも、歴史が比較的浅く多様な人種が集まる国として、様々な料理が外国の影響から生まれています。例えば、代表的なアメリカ風中華料理として、General Tso’s chickenという甘辛い鶏料理がありますが、このようなアメリカ風中華料理では特にはずれを引く可能性が高いです。正直に言って、吐きそうになるものが多いです。ウィスコンシンかどこかでおいしいGeneral Tso’s chickenを食べたことがあるような気がするのですが、それはもうはるか遠い記憶です。いくら日本のアレンジ料理がオーセンティックでなくても、吐きそうになるレベルのまずい料理はめったにないのではないでしょうか。アメリカでは、口に入れれば気持ち悪くなるような食べ物や料理がそこらじゅうにあふれています。

General Tso’s chickenも、いい料理人がつくればおいしい料理です。General Tso’s chicken自体がすでに中華料理のアメリカ風アレンジ料理なのですが、想像するに、アメリカの多くの中華料理店が出しているまずいGeneral Tso’s chickenはアレンジのさらにアレンジ料理(改悪)、とでもいうものになっているのではないでしょうか。たちが悪いのは、そのような中華料理を作っている人々の多くが、中国人あるいは中国にルーツを持つ人々なことです。中国人は世界中どこでも人数が多いですし、もちろんアメリカにもたくさんいますから、必ずどの都市にも本物の、あるいは本物に近い中華料理を出しているお店があるはずです。中華料理は基本的にそのようなお店で食べることをおすすめします。特に四川料理やインド料理などの辛い料理は、日本では辛さやスパイシーさを抑えているお店が多いので、アメリカのお店のほうがより本場の味に近くおいしいという場合は往々にしてあると思います。

「食べ物の質が低い」というのは、何もレストランだけの話ではありません。自宅で自分で料理して食べ物を用意しようと思えば、水と食材と道具が必要になります。これらについては、Shige’s Americaの姉妹サイトShige’s Kitchenで詳しく紹介していきますが、水と食材は明らかに、日本よりもアメリカで、品質の良いものを手に入れるのが難しいです。道具もそうだとは思うのですが、特に水と食材が問題です。水も食材も道具も、お金でどうにかなる部分は大きいですが、道具が最もお金で解決しやすいのではないでしょうか。

まず、家を決めてしまった時点で、水道から出る水を変えることはほぼ不可能です。水の硬度は住んでいる地域でほぼ決まってしまいますし、その家やアパートの水道管が錆びていたり汚れていたりすれば、工事をしてもらわない限り水の品質を根本的に改善することはできないのではないでしょうか。しげのアパートの洗面台の排水溝は、入居したその日からつまっていました。なので、すぐにDranoという日本でいうパイプユニッシュのような商品を買いました。食べ物とは関係ないですが、入居初日からゴキブリもいました(livingもdeadも)。

しげは耳が悪い代わりに鼻と舌が敏感なので、はじめは歯磨きすら吐き気がしてできなかったほど、水道水はまずいです。入居してすぐは特に水質が悪かったのだと思います。オースティンでは年に数回程度、水道水を飲む場合は一度煮沸するように警告が発せられます。原因はよくわかりませんが、オースティンの水道水は、おいしくないどころか安全性の問題すらあるということです。水については、追って別記事でより詳しく説明します。

次に食材ですが、こちらも明らかに日本よりも質が低いです。アメリカにも高品質の食材はたくさんあり、一般化することはできないですが、おいしく見た目がよく栄養価の高い食材を毎日の料理のために手に入れることがアメリカでは日本よりも困難であり、また高価であると言えば、正確であると思います。テキサスに来て初めて大学の寮ではないところに住んだため、そこで初めてこのことを目の当たりにしたのですが、これはしげにとって少し意外なことでした。それもUCデービスとUWマディソンで得たバイアスによるものだと思います。デービスでもマディソンでも毎週のようにfarmers marketがあり、そこで様々な新鮮な農作物や日本では見たことのない珍しい食材などを見ていたためです。

UCデービスで英語を学ぶために初めてアメリカへやって来たときの印象では、アメリカでは人も建物も食べ物もすべてのものが大きいのだと思いました。しかし、その印象もテキサスでは一部くつがえされました。アメリカのスーパーに売っている食材の多くがとても小さいからです。デービスやマディソンでは巨大な野菜を色々と見た覚えがありますし、たしかにテキサスのスーパーにも、大きななすやきゅうりの仲間が売っています。しかしそれらは、あくまで品種の違いによる大きさの違いであって、同じ品種で比べれば、アメリカのスーパーに売っているものの多くがことごとく小さいことに気がつきました。要するに、貧弱です。野菜もお肉も育ちきっていない。栄養不足で短期間で育て上げられたものが売っている、ということです。少なくともしげが知っている限り、テキサスのスーパーでは人参もトマトも大根もりんごも鶏肉も貧弱です。日本やアジアが原産のものは仕方がないかもしれないですが、大根は細くて頼りないものですし、ふじりんごは小さくてふじではないかのようです。鶏肉も小さいですが、そのくせ脂肪分が多いです。アメリカにある多くの食材が日本にあるものとは品種が違うようなので、確実に比べられるもので比べるため、日本の例が多くなってしまいました。ですが、いま挙げた以外にも、多くの野菜や果物が貧相で色が薄く育ちきっていないように、しげには見えます。

特に果物は質が低いです。多くの場合、食べても味がないのです。ポンジュースのようなみかんジュースが飲みたかったのに、仄かにみかん風味の効いたい・ろ・は・すを渡されたような感じです。後者は後者でおいしいものですが、果物そのものを食べるのなら、果物の甘味や酸味、その果物らしいおいしさががつんと来ることを期待すると思います。アメリカで普通に売っている果物の多くが、見た目は果物になっているのに、実際の中身は薄味の水でしかないという感じです。

このような状況に対処するため、いままでにも、本当に様々な買い物方法を模索してきました。自宅アパートから歩いてすぐのところにCentral Marketという大きな高級スーパーがあり、そのスーパーの存在もアパートを決めた大きな要因のひとつです。本記事冒頭の写真も、Central Marketで撮ったものです。りんごの種類が多いのではじめは驚きましたが、ひとつひとつのりんごはそれほどいいものではないのではないかと後から思うようになりました。またアメリカでは、置いてある果物をお客さんが勝手にかじって元に戻すようなことも普通なようです。程度の高いスーパーほど、そのような客は少ないようですが。

Central Marketで様々な商品を買って試すことはもちろん、ほかのスーパーも使ってみたり、オンラインで買い物するなど様々な方法を現在も試行中です。オースティンにはWhole Foodsの本社がありますし、Whole Foodsにも何度も足を運んでいます。Whole Foods は現在はAmazonの傘下なので、AmazonからWhole Foodsの宅配も頼んでいましたが、配達料がかかるようになってしまったため、Whole Foodsの代わりにAmazon Freshを多く使うようになりました。その他に、肉、魚、野菜、果物、コーヒー、お茶などの分野ごとに、それぞれに特化したオンライン・ショップを利用するのが最も高品質な食材を購入するのに有効なのではないかと考え、ひとつひとつの分野で最高のサービスを模索中です。特に車を持っていない場合、たまたま近くにあるスーパーに歩いて行って買い物するという選択肢しかなくなってしまいがちですが、それでは、そのスーパーで売られている食材の質に、我々の生活の質そのものが左右されてしまいます。そうならないためにも、良い食材をオンラインで購入するという選択肢は、試す価値のあるものではないかと思います。

アメリカには世界トップレベルの大学がいくつもありますが、国民の平均的な教育レベルは日本のほうが圧倒的に高いはずです。このようなことは、ほかの様々な分野にも当てはまることではないかとしげは考えています。つまり、食べ物にしても、アメリカでは平均して質が低いのですが、アメリカで一番いい食べ物はかなりいいものであるはずです。なので、その一番いいものをどうにか手に入れられないかと思い、オンラインでの買い物を始めました。本当にいいものはやはり高いと思うのですが。食材の分野ごとのオンライン・ショップについての詳細は、追って個別記事で詳しく紹介していきます。

食事は誰にとっても大事な生活の基盤ですし、どこで何を成し遂げるにも、美味しいものを十分な量食べることができる環境が必要です。多くの人はとても忙しく、また家族や居住の形態なども人によって様々ですが、それぞれの人にあった食生活の基盤を固めなければいけません。ましてや、建築について考えることは人間の生活や生きることについて考えることですから、建築史家のしげは、自分の生活、特に食生活について徹底的に考え抜かなければなりません。将来はできる限り食材を時給する道を探ってみようと思います。

このような食生活に関する実践の積み重ねも、しげがShige’s Kitchenというウェブサイトを立ち上げたことにつながっています。そちらもどうぞご覧ください。

本記事の続編「③移動」はこちら。

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